足指に精子塗れて陽は高し ますます青き観葉植物

たかぶるるはつなつの性欲の先 先触れ(カウパー)はあくまで透明で

バスのドアが開くと走り出したあなたにぼくは眺めることしかできなかった。日の照りかたの美しい11月の10時すぎに小走りにゆくあなたは美しかったし、それを眺めながら歩いて追うともなくいるぼくも美しかった。まるですべての父と娘のようにそれはあらかた間違って美しかった。なにから証明すればもっと醜くなれたろうかというのは、ずっと考え続けるには筋の悪い問いで、もうぼくたちのまわりには近くの噴水の飛沫が風に乗って吹き散ってさえいた。

複雑で大きな交差点の一方で、ぼくはあなたを見守っていた。道路をひとつまたぐごとに、ながい時間がかかった。ほんとうにゆっくりあなたは去っていった。あなたが振り返るたび、ぼくは何度も小さく手をふった。もうこれ以上どこに行くか知らないあなたの背中を、うらみかさみしさか知らない強さで見ていた。あなた自体という物体の離れてゆくことをぼくはかなしく思った。何個目かの信号が青になり、あなたが地下鉄の駅の入り口に消えたあとで、すぐもうぼくは新しくなって空を見た。なにかが跡になって残ってはいたが、車歩分離信号の上で交尾する鳩は、わたしたちの秋という季節を射精の絶頂にすら知ることはないのだ。

車歩分離信号の上で交尾する鳩 秋というわれわれの季